ちっちゃくなっちゃった 2
- kyaurope
- 2017年4月20日
- 読了時間: 6分
※ちっちゃくなっちゃったの続き
身の丈140cmにまで小さくなったユヅキが、顔を真っ青にして会議室の扉を跳ね開け飛び込んできた。
「なんなんですかあれは!」
「おかえりユヅキ」
「おかえりじゃないですよ! なん、全然見たことも聞いたこともないエネミーがわんさか出てきて、あの巨人はなんですか、あの二輪のおばけはなんですか、あの家やおもちゃは、でっかいメカや鳥はなんですか! あの青いラグネは、ゴルドラーダはなんなんですか! なんで壁で仕切られるんですか!? ソケットを侵食ってなんですか!? あのエネミーの量はなんですか!? いったい、いったいなにと戦うつもりで、なにからの防衛を想定してるんですかッ!?」
「いい反応するなお前。どうやらやっぱり昔のユヅキらしい」
「き、記憶喪失なの……?」
「いや、違うぞメリル。通常のラグネも防衛任務そのものも俺のことも、そもそもアークスのことも記憶にあるらしいから、喪失だとしても大分中途半端だぞ」
「それに、それに……」
ユヅキが声を震わせる。
「あの真っ赤なロボットはなんですか!! 新手の機甲種ですか!?」
「あー、【若人】封印作戦やってないだろうな」
「僕、むしろあれに乗りたいッ!!!」
「あ。第三基地防衛作戦にも参加してねぇなこれ」
頬を紅潮させて目を輝かせているけれども、ユヅキも立派にAISを乗りこなしていたんだぞ。
「で? その赤いロボットとはどう戦ったよ?」
「あ……、えっと、戦うっていうか、なんか一撃で倒しました。サテカ落としたら一発でした。」
「おー、なんでそうした?」
「なんか、そうするものだっていう感覚に引っ張られて……。僕、あんな中で普通に戦ってたの?」
「うん、よし、やっぱ戦闘経験はそのまま読みこめてるな」
「っていうかなんですか☆13って!! 星がなんかいっぱい並んでてしかも虹色に輝いてるんですけど!? オービットってなんですかこれ!? PPがぐんぐん回復するんですがなんなんですか強すぎやしませんか!? 犯罪じゃないんですか大丈夫なんですかこんなのが一体どれほどうちにはあるっていうんですか!?」
「まぁまぁ落ち着けよユヅキ……ミルクでも飲んでさ。……笑いすぎだピュイ」
指先で目じりを拭い始めたピュイはシカトして、リンクがユヅキに横に座るよう手招きしつつマルスが注いだミルクをテーブルに置く。
「いいかユヅキ。落ち着いて聴け。お前はなんか知らんが今お前にとっての未来にいる。ここはお前のちょっと未来の世界だ。お前は色々とえらい働きをして、六芒均衡に比肩する称号と立場を持っている」
「あ……なんか見たこともない称号つけてるなって武装確認してる時に思いました……なんて読むんですか、これ? しゅごきしで合ってます?」
「守護輝士《ガーディアン》だ。」
「………………ええ……。」
「うん。その反応は未来のお前もしてたぞ。やっぱりユヅキだな。うんうん」
「ろ、六芒均衡って三英雄とかが入ってるって言うアレですよね……? そ、それに並ぶって、なんかすごいことになってますね……? うそついてません……??」
「ついてないぞ。アークス公認でお前はそういう立場だぞ。んで、お前はその道中で着々と仲間を増やし、これだけの人数がお前の指示で動くようになったぞ。平たく言えばだな、大体お前への信心で動くなんかもうお前の部下だぞ!」
「アヤしい宗教みたいな言い方やめなさいよっ!」
「間違ってはないだろうがよ!」
「間違ってるでしょーよ!! なんかえらくなったっぽいな~ってだけで別に一ミリも崇めちゃいないわよ!!」
「まぁ、信用して集まってるという点で、とりあえずいいんじゃないかな?」
言い争うリンクとピュイにマルスが苦笑しながらそう制する。リンクが続ける。
「それで、お前はしばらく前に地球っていう惑星の調査に一区切りをつけて、前線を俺達に任せ事務作業やらの後方任務でも受け持つことにしたわけだが、……どう思う?」
「どっ!? どう思うって……。いわれても……! な、なんかスゴイね……!!?」
「そだな。なんかスゴイな。」
「りっ……理解はしたけど納得はしてないですよ……っ!」
「よろしい。お前自身の感覚を聞いてる」
「あーっ、あーっ……。な、なるほど……。えっ、えっと。でも……」
ユヅキが挙動不審で目を泳がせながらも全員の顔を見る。
「ぼ、防衛訓練に行って、ぼくが戦闘中皆さんのことを考えていたことはよくわかりました……か、顔見知りだったみたいで…………。え、えーと、非礼をお詫びします……申し訳ありませんでした……っ!!」
「まーまーまー。いーっていーって!! だってべっつにユヅキに責任はなさそーよ!? ねぇ!?」
「えっ!? あっ、う、うん……! そうだよ……!」
「原因も経緯も不明だけど、仕方ないね。」
ピュイ、メリル、マルスが頷く。
「それで、これからどうするかだけど……」
マルスが相変わらず至って大真面目に先の行動を考え始める。
「どうするってなんだよ、とりあえず経過観察ってことでほっときゃいーんじゃないの?」
「一応シエラに報告ぐらい入れておいた方がいいんじゃないかな?」
「当面の戦闘に支障がないんだし、それ以外は俺らで補えるし大した非常事態もないしで、何もわかってない現状でオペレーターに報告するのはむやみに混乱させるだけじゃないか?」
「んー……。それもそうか」
「えっ、いいのん?」
「解決したとはいえ、マザークラスタの一件でアークスにスパイがいないとも限らないしね。……僕が言うのもなんだけど」
「確かにそうだな!」
「守護輝士の機能不全説が囁かれるだけでも、どこかがその隙を狙ってこないとも限らない。しばらくの間だけなら、僕らの間だけでなるべく秘匿しておくのが無難かもしれないね」
「そうだね。何より、マトイが聞いたらとても心配するだろうね」
反応を予期していたかのように片目を瞑りながら口にしたクロラのその言葉に、やっぱりユヅキが釣れた。
「マトイ!? そういえば、あの子の体調は大丈夫なのかな」
「あー。うん。こないだクラリスクレイスと追いかけっこしてイルグラで追い打ちして捕まえてたの見たから普通に元気だと思うぞ」
「そうなんだ、追いかけっこ……イルグラ……。ん? え? ……えッ!?」
大困惑するユヅキを尻目にリンクが口笛を吹く。クロラとハイタッチまでする。
「とどのつまりなんも心配いらないってことよねっ! ユヅキ、なんかしらんけどあたしらはいつも通りにしてるし、ゆっくりしていらっしゃーい!」
「うぇっ……!? あ、はい……。せっかくだから未来観光します……!」
「おー。それがいいそれがいい。滅多にないぞ、多分。お前の未来は安泰だ。ここにある備品は大体お前のもんだから適当に過ごせ」
「困ったらリンクになんでも聞くといいよ、僕も応えるしさ」
「そ、そうします……!」
「子供とあれば俺に御守りさせるのやめろよな!? 慣れてるから全然いいけどさ!?」
「あっ、ご、ご迷惑でしたら……」
「お前はもうちょっと子供らしく大人に甘えて無邪気に生きろって。メリルもだぞ!?」
「ふぇぁっ!? ごっ、ごめんなさいっ……!?」
「わかったわ!! とりあえず一曲、踊っちゃおっか!」
「ピュイ……お前は……座れ……」
ピュイが視線をかっさらい、メリルとユヅキが言葉をなくしているうちに、リンクは前かがみにクッキーを貪りつつテーブルの下で秘密チャットを打ち、マルスに送る。
『暇があったら総務部の方でユヅキの行動履歴をバレない程度に洗っといてくれないか』
リンクのそれとないアイコンタクトに対し、マルスが視線を外して小さく頷いた。
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