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電脳妖精ユヅキ

  • 執筆者の写真: kyaurope
    kyaurope
  • 2024年2月11日
  • 読了時間: 5分

 今日もいい天気だ。ユヅキにとってはいつも通りのパトロール日和。

ふと、観光名所の一つである古くからの大神殿の大混雑の最中の自分の視界の端に、擬態しきれていないタコの足が、目の前の男の後ろ髪にうごめいているのが見えた。


「――異人、確保ーッ! 皆さん、すみやかに退避して通報してくださいッ!」


 考えるよりも早く、いつも通りに後ろから華麗に飛び掛かり、突然掛かる体重で押し倒す。後ろ手を掴んだそこに迅速に手枷がハメられるも、次の瞬間にはユヅキも後ろ手に組まされ押し倒される。


「まったく。どこのプログラムだか知らないが、人外保護法によりお前も逮捕だ。――連行しろ」


 おや。擬態は完璧だったはずなのに。これが看破されるっていうことは……。

――ハッキング、開始。


「ッ待てッ!」

「待ちませーん! 僕にはここで捕まるよりずーっとスウコウな使命があるので!」


 ユヅキの手枷がカランと床に落ち、そのまま後ろ手にあった腕を大きく振って走りだした。まるで教師に追われて逃げるいたずらっ子の生徒のように、あははと笑いながら視線は必死に退路を探していた。

――レイヤーモード、オン。

ビル群の街並みが、骨組みの透けるように視界が変わる。

多面コライダーの隙間を見つけ、その中を走りくぐる。

そのまま走り続け、右へ左へと壁を抜けていく。

その間、ギャングが子供をゾロゾロと引き連れていたり、そして何かを教えていたり、あるいは少女が冴えない男から金を受け取っていたりする光景が、半透明の姿となってユヅキの視界に移り続ける。

 特にいつもと変わらない、この街の暗部。スラム街の路地裏はいつだってこんなもの。

ユヅキがあからさまに真横を駆け抜けたって、彼らが気付くことはない。

何故ならこの街は、世界は、薄紙を重ねてできたようなレイヤー構造だからだ。

同じ街でも、違うレイヤーに住む者は触れあうどころか、視認もできない。

そしてユヅキは、そうした全レイヤーを見る“目”を持って、それを跨ぐ“力”を持っている。

そろそろ撒いたかといったあたりで、ユヅキはギャング一人に子がゾロゾロの光景に目を向ける。

 半透明のその光景は暫し観察した限りでも、これから騙されて人身売買へといったところか。

ユヅキが一歩前へ踏み出すと、半透明のその姿は、骨組みばかりだったビル群は不透明の実体へと変わる。

突然虚空から現れた少年に一人の少年がぎょっと目を見開くと、他の少年少女やギャングも振り返り、視認する。

ありふれた文句を言いながら銃口を向けたギャングへと、ユヅキは張り付けたままの笑顔でこう返す。


「――ハッキング、開始。停止せよ」


 そう指を差されただけで、ギャングはまるで銅像のように停止する。呼吸の様子さえ見えない。


「さぁっ! 皆さん、逃げましょう! 皆さんは危うく騙されて売られるところだったんです。早く!」


 みな、オドオドと顔を見合わせて逃げない。しかし、リーダー格だろうか、一番背丈の高い少女が「やっぱり」とポツリ呟くと、皆顔色を真っ青に変えた。

ユヅキは頷き、少年の一人の手を取って走りだした。それを見てあわてて全員追従する。

――レイヤーモード、オン。視界共有。

少年少女たちがわぁっと声をあげるが、構っている暇はない。安全な街並みへと連れていく必要がある。

そう駆けていくうちに、一人が悲鳴を上げて指差した。ユヅキも確かに視認した。


「なんだあれ!? 化け物!」

「デカいヘビ! デカすぎるよ!」


 白き大蛇、ケツァルコアトル。電脳世界に巣食うその魔物をユヅキはとうに知っていた。

咆哮。伸びる長い舌。威嚇行為を済まし、確かにこちらに突進してきた。

悲鳴をあげる子供たち。しかしユヅキは焦りを拭い、冷静だった。

――アセット、呼び出し。


「ヘビなんかに構っている暇は、ないんですよッ!」


 虚空から左手に握った“ロッド”を振り上げ、大規模な氷の盾を即座に生み出す。

何度もそれに突進しようと氷の障壁がパリリと音を立てて揺らぐ。

パキンと割りきって、こちらを見据えたヘビ睨みを見て、しかしそれは即座に震えながら仰け反る。高圧電流。続けざまにユヅキはロッドを振り上げ、無慈悲にも大火で焼き殺す。

ドシンと倒れた巨体を見ても、ユヅキは何の未練もなく手を引いて走りだす。

コイツの皮はきっと高く売れただろう。

最後に壁を一枚すり抜けて、レイヤーモードを解除する。

一本横道を行けばそこは賑やかな街道だ。


「さっ。これでもう無事安全に帰れますよ! 皆さんちゃんとお家に帰ってくださいね!」


 くるりと無邪気にカカト一本で振り返って笑顔でそういったユヅキは、ようやく一同の曇り顔に気付いた。

はて? と体ごと斜めに倒していると、一人が呟いた。


「帰るお家、ない」


沈む一同。これも、珍しいことではなかった。

だからユヅキは、あぁ! と一声上げただけで、すぐにこう続けた。


「じゃあ、孤児院に行きましょう! 連れていきますよ!」


 今日も、いい天気だ。ユヅキにとってはいつものパトロール日和。

今日も平和な一日だと、ユヅキにはそうとしか思えなかった。





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これも入院中に見た夢の書き起こしです。

「めっちゃラノベの導入みたいな夢見た!」と思ったので、朝食を運びに来たおばちゃんにいい加減起きろ何してんのと怒られようが構わず内容をメモしてました。

その後設定とあらすじを考えたので、入院中に書いたこの夢の続きがまだちょっとだけ残っていたりします。軽く読み直して微妙かなーと思ったので一度そっ閉じしたのですが、スケッチブック整理のため、オンライン上に書き残しておくことにしました。

さらに続きを書くかは……よほど希望があればですかね……。

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