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見た夢書き起こし 能力もの

  • 執筆者の写真: kyaurope
    kyaurope
  • 2024年5月19日
  • 読了時間: 3分

──キミは、エージェントになれる。


……もう何度となく、反芻される声。


「……ほら、行くよー?」


私を呼ぶ、友達の声。制服を着て、鞄を背負って、バスを待ついつもの道。

ショーウィンドウに映る私の姿から目を逸らし、その子たちの元へ駆け出す。

日常の風景。


私の知らなかった、日常。


──エージェントとは、怪異となった人間を狩る存在だ。


……知っている。

私はその、エージェントだったから。

髪を二つに結い、制服を着て、鞄を投げ捨て、喚び出した日本刀を振い、怪異を切り捨てたその瞬間だった。


──キミには、素質がある。


……当然だ。

だって私は、ずっと人知れずこの怪異を“処理”するために生きてきたのだから。

声を掛けてきたのは、別の事務局のエージェントだった。

私が既に別の事務局のエージェントであることを知らないのだろう。

……あるいは、もう、あの事件の時に死亡扱いになって、記録が消されているのかもしれなかった。


(……咲希!)


……あの事件。ビルの隙間に突っ込んでいったバスの爆発の中、咲希は姿を消した。

咲希は死んだのだろうか。

私たちは激しい戦いの中で無線機を落とし、敵を深追いして、名も知らぬ街まで来てしまった。

誰も私たちを探しには来なかった。

ただ、敵を倒して日本刀をしまい当てもなく歩き出し、途方に暮れていたとき、手を差し伸べてくれた女の子がいた。


(……大丈夫?)


百合香と名乗った。

夕焼けに透けるロングヘアを押さえながら、そう言って私に手を差し伸べた。

一人暮らしだという。親元を離れて寂しかったという彼女は、傷だらけの私を家に引っ張り込み、手当し、制服を繕ってくれた。

そうして、間も無く彼女の学校に通うことになった。

学校のテスト。昼休みのお弁当。放課後のカラオケ。買い食いしながらのウィンドウショッピング。

百合香は友達グループに私を引っ張り込み、よく連れ回した。


……楽しかった。

と、思う。


──エージェントになれば、キミと同じように能力を持った同い年の子とペアを組み、施設で訓練を重ね、怪異退治に臨むことになる。


……知っている。

私と咲希が、ペアだったから。

長い間、いや、振り返れば大したことのない時間、一緒に生活してきた。


(……あなたは、普通の生活に憧れたことはない?)


どこかの事件の後、瓦礫の上で咲希が問いかけてきた。

振り返る私には、ビル群の光に反射して煌めく夕焼けの、ビルの影にいた咲希のその時の表情が分からなかった。

……普通の生活?

……考えたことも、ない。


(……普通の幸せが、欲しかったとは思わない?)


見上げる咲希の顔は、ビルのガラスに乱反射する咲希の姿は、切なく、笑っているように見えた。

……私には、意味が分からなかった。


……でも。


(誘いを受けたら、新しくペアになる子はどんな子だろう)


私たちは肩を寄せ合いながらバス停でバスを待ち、友達と百合香はスマホの画面を見せ合い談笑している。


(……私、その子と仲良くできるのかな)


……でも、今。私は。


「だよねぇ百合香!」

「ねぇ、あなたも見てよ! この猫! 可愛いよねぇ!」


得意げにスマホの画面を見せつけてくる百合香たち。

その弾ける笑顔は、施設でしている人は見たことがないものだった。


「……そうだね。可愛い」

「もー、クールー! らしいけどね!」


またスマホを見て談笑に戻る彼女ら。あ、バスが来た。

みんなでバスの段を登って、学校へ向かう。

いつも通りの、日常。

これが、普通の生活。


(私は、今、普通の幸せというものを掴み掛けてるんじゃないの!?)


……教えてよ。咲希。

私、どうするのが正しいの。

私はいつだって、正しいことをしてきたつもり。

夕焼けのガラスの中の咲希の姿が脳裏に焼き付いて離れない。


私はバスの窓ガラスに手をついて、外の景色か、それに映る私の顔か、よく分からないものを眺めた。


「……咲希……!」


……私の中の、咲希への感情が分からない。

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