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​──“寄り添う影”

 ◆ Scene0:初邂逅 ──
 

 ――路地裏。
 支部のない都市にまで駆り出された“アナーキスト”は、FHセル同士によるαトランス取引現場にワーディングと共に単独で強襲を掛けた。小さいセルであり大したエージェントでもなく、事前測定の結果ジャームであったため、――心置きなく――処分に成功する。

 

黒峰 達哉 :

(……ふぅ。……こんな恐ろしいものが極小セルの間でまで出回るようだと、そりゃあ事件も頻発する。次の取引現場を押さえれば仕舞いだろう……油断せず、伏見さんと共同するか……)
 αトランスを回収して愛用のバイクに積み、インカムに手を掛ける。

 ……はた、と。盗聴用イヤホンの方から、呑気なチャイムの音が聞こえてくる。犬獅子の学校の音だ。……どうやら最後の授業が終わったらしい。
(……あぁ。そんな時間、か)
 時計を見て気が抜ける。もう少しすれば人通りも増えてきてしまうだろう。

(……一服、するか)
 UGNの回収班に連絡する前に。ワーディングを解除する前に。珍しく仕事より優先するほどの郷愁に駆られた黒峰はバイクに背を預け、《無上厨師》でJPSと《万能器具》でライターを生成。

 火をつける際に死体が視界に入る。
(……本当は、吸う時はもっと一人のときが良いが)
 たかがジャームとはいえ、取引場の選定はまともだろう。顔を上げて煙が昇る。
(……贅沢、言ってられないな)
 普通の高校生は、悪いことをしようと思うと先生から隠れてタバコか酒をやるらしい。あくまで聞いた話だ。片耳からは、生徒同士の雑談と、夕飯の話題が聞こえてきた。

 

久遠緤 :

「……え」
 人通りの少ない裏道。ワーディングを検知し、近くにいるであろう他のオーヴァードを避けようと入り込んだのが仇となった。
(マジか……《無音の空間》使ってはいるけど、下手に旋回なんて目立つ動きしたら流石にバレるよな……)
 どうしたものかと頭を悩ませ、バイクに跨ったまま片足で止める。

(あれ、多分FHか……)
 彼の足元の死体をちらりと見る。
(巻き込まれたくないな。まあバイクはまた作ればいいか)
 モルフェウスで作ったバイクを乗り捨てることにし、そっと背を向けようとした。

黒峰 達哉 :

 人の気配に気付き、タバコを咥えたままさっと拳銃を向ける。

 注視したままぷっと横を向いてタバコを捨て
「止まれ。……失礼。私はUGNの“アナーキスト”です。この辺りは現在私の管轄のはずですが、あなたの所属は?」

(ここまで接近を許すとは。FHの増援? そのはずはない。近隣組織の面々は既に把握している。UGN……も人手不足で今ここには俺しかいないはず)

久遠緤 :

 一応はポーズとしてそっと両手を上げて、それでも彼の経歴と今UGNとして活動している事実とコードネームのちぐはぐさに、少し口角を吊り上げる。
「ええ? アナーキスト? UGNにいんのに?
 ……ふふ」

「所属ったって、俺UGNの人間じゃねーし、そっちの管轄とか知らないし。てかただの帰り道なんですけど? 仕事熱心なアナーキストさんですね!」
 銃を向けられながらも、UGN嫌いが止まらない。

(面倒なことになったな……。どこか隙を見て逃げたいけど)
 とりあえず、今下手に動いたら即死と判断し、質問には答える。

黒峰 達哉 :

「……ほう。では、私が今からFHにでも転向すればあなたは喜びますか?」と、真顔で冗談言ってカマをかける。

久遠緤 :

 ピク、と眉が動く。
「あ……? あんたまさか、俺がFHだと……? あんな汚い腐れ外道共と一緒にしないでくれる?」
 大嫌いな奴らと同じに見られるなんて、これは交戦も止む無し。手は上げたまま、頭の中でナイフの位置を確認する。

黒峰 達哉 :

「……ふむ。……では、あなたは完全な野良ということですか。それは失礼いたしました」
 銃口を横に逸らして
「……重ね重ね失礼しますが、あなたの“お名前”はなんと言うのでしょう?」
 警戒を解いたそぶりだけはする。しかし実際には解いていないのはその目つきを見れば明白だろう。

久遠緤 :

(参ったな……。こうも正面から見られてたら、逃げようにも隙が無い)
 まっすぐに彼を睨み返し、どう答えたものかと思案する。
「……UGNのチルドレンなんかに、みすみす個人情報渡したくないんだけど?」
 結果、ひとまずはしらばっくれてみることにした。

黒峰 達哉 :

「……」

 眉間にしわを寄せる。何故だか、チルドレンなのはバレているらしい。そんなに自分は子供っぽかったろうか?
「……まだ幼そうに見えますが、随分肝は据わっておいでのようだ」

久遠緤 :

「そりゃあ、覚醒して2年程度のあんたより……」
 場数は踏んでる、と言いかけて押し黙る。
(やばい、これ今俺が知ってていい情報じゃない。下手打ったな)

黒峰 達哉 :

 再び銃口を向ける。
「……何を知っている」

久遠緤 :

「血の気が多い……! 献血でも行ってきたら? あんたの血の気の多さなら、多少採ってもピンピンしてるだろそれ!」
 しっかり煽りは入れつつ、頭はフル回転させる。
(まあ最悪俺のことは調べられても構わないが……情報持って脱走してきたあいつのことは知られるわけにはいかないな……)

黒峰 達哉 :

「……。ますますあなたに興味が湧きました。一体どんな経歴をお持ちなのか是非とも教えていただきたいですね」

 こいつは無駄口が多い。ということは、増援がないか周囲も警戒する。

「……あなたはUGNではない。しかし、FHに関与する気はさらさらない。そして、今は私と交戦する気はない。……そういうことでよろしいですか?」
 相手が情報を持っていて、こちらが情報を持っていない相手との単独戦闘は当然避けたい。

久遠緤 :

「あんたが、俺の家族を害する気がないのなら」
(脱走してきたあいつを連れ戻しに来たんなら、ここで始末してやるが……)
 警戒が周囲にも向いたのを察知して、腰のバックルにつけたナイフにこっそり手を伸ばす。

黒峰 達哉 :

「妙な真似はしないことです」

 その手に目線をやり、また目を見つめる。
「ここは互いに、手を引きましょう。私も別に、このFHを片付けに来ただけで、あなたの家族とやらには何の興味もありません。それとも、あなたは彼らの御親類でしたか?」

久遠緤 :

(手を引くって、いきなり拳銃向けてきたのはそっちだろ!?)
 とは思いつつ、下手にUGNと揉めたくもないので、大人しく両手をヒラヒラさせる。何もしてないでーすアピール。
「いいや? FHに家族なんていない。むしろあんたらが勝手に殺してくるなら万々歳だ。俺の家族に手を出さないなら、俺としても別に争うつもりはない」

黒峰 達哉 :

「……ふむ。あなたはFHに随分恨みがおありのようだ。どうです? この後FHセルの本拠地でちょっとしたパーティをやるのですが。あなたほどの実力者が一時でも加勢していただければ心強い」

 既に拳銃を下ろして提案する。

久遠緤 :

「それは魅力的なお誘いだけど……どういうつもり?」
 これだけ警戒していた相手を仕事に連れていこうだなんて、裏しかない、と怪しむ。しかしFHを叩ける機会はそうそうないので少し揺れている。

黒峰 達哉 :

「お気に召しませんか」
 名前とシンドローム、戦闘スタイルを把握しておきたい。伏見や他のエージェントと合流すれば、困ったら叩ける。単独戦闘や、このまま無収穫で逃すよりは利が多い。そう瞬時に判断し機転を利かせる。
 しかし相変わらずの無表情さのため、その心理は幸いにしてはかられにくい。

久遠緤 :

「気に入らない、わけではないけどね」
 意図が読めずに警戒する。
「俺にとっては、FHほどではないにせよ、UGNも敵だ。わざわざ囲まれに行くような真似、するわけないだろ」

黒峰 達哉 :

「おや。残念。随分複雑な事情をお持ちのようですね」

 肩を竦める。わざとらしく拳銃のほこりを払って収める。
(UGNとも因縁あり、か。ひとまず身体的特徴から記録を漁れば何か出るかもしれないな)
「では、ここで一旦お別れとしましょう。お手数ですが、ここは引き返していただけますか。今からこちらにはUGNの回収班が来ますので」

 そう言いながらインカムに手を添え、合図を送る。

久遠緤 :

 はあ、と大きなため息をつき、小さな声で
「久遠緤。昔の名前は『エクスピアシオン』」
 と名乗る。これは嗅ぎまわられるなと感じ、それならデータで探られたほうがまだいいと判断したため。

黒峰 達哉 :

「……ありがとうございます。こちらの名前は……もう把握されていそうですが」

久遠緤 :

「別に礼を言われることじゃない。今の俺を尾行されても困るし、UGNのデータベースでも漁ってくれってだけのことだから。……あんただけじゃなくて、この辺りに踏みこんできたUGNやFHは把握してる。また日常を壊されたくないからな」
 って軽く牽制のつもりで入れて、
「じゃあ、お仕事の邪魔らしいからここらで退散させてもらうとするよ」

 

立ち去りかけて、くるっと振り返り、
「ああ、そうだ。早とちりすんなよ? UGNに俺の名前が残ってるとすれば────多分、FHのチルドレンとしてだから」

黒峰 達哉 :

「…………ふむ」
 確かに複雑そうだ、と把握して密かに態度を緩める。

「では、また会う日までお元気で」

久遠緤 :

「ん。じゃあ、ばいばい」
 そう言うと、ひょいひょいと黒峰と死体の脇を身軽にすり抜けて路地裏を駆け抜けていった。

 器用なこった、と黒峰は眺める。

 そのうちにUGN回収班が到着して、黒峰は事態の引き渡しをして次の現場へと向かっていった。

 久遠緤、“エクスピアシオン”のことは報告しなかった。

本作は、「矢野俊策」「F.E.A.R.」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ダブルクロス The 3rd Edition』

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