
―Collaboration
Episode4
リンク vs わご
惑星ナベリウス、森林エリア。規定座標外。
警告するレーダーマップの拡張現実を切り、リンクは樹木にもたれかかったまま振り返る。
――まだ追ってきていない。多分余裕の笑みを浮かべて散策気分で歩いているのだろう。
ということは、まだ充分の時間があるということだ。リンクは呼吸を整える。
こういった戦闘において、フォトンで出来ることは案外少ない。フォトンで人はやれないのだ。
正確には、『対象を殺す意思がないから殺せない』。フォトンは善悪を抜きにして精神性が大きく影響する素材だ。
リンクは今の相手を殺す気などさらさらない。ほんのちょっと驚かせてやって、面白がって大層満足してくれればそれで結構。
ちょっとした殺意をちらつかせて、最後に機嫌よく打ち合いをすれば暇つぶしに入る食堂のメニューとしては俄然最高だろう。
問題は"ちょっとした"で満足してはもらえないだろうということで……つまり、リンクは完全に"殺す気マンマン"のトラップをいくつか仕掛けてきた。
そういった、1.残留性があり、2.殺意があり、3.手に馴染む罠、を作るには、フォトンは適していない。
先日下見までしてせっせと用意しておいたこのポイントまで誘導すれば、多少の一芸は見せられると思う。
正直リンクは、期待半分、不安半分で森に潜み待ち構えていた。
うっかり殺してしまうかも、という不安はそこではない。どうせあいつは死なない。罠が動作しないかもとか、お気に召さないかもとか、そういうことだ。
うまく動作すればそれだけでワクワクするものがあるので、それが半分の期待だ。ちょっとでも驚いた顔が見られればご満悦。
そういった低めの満足度設定の上で、『これを喰らったら正直自分は死ぬ』という程度の、考えられる中で一番殺傷能力が高く厭らしい舞台設定。
……とはいっても、そんなおもちゃ程度に大金を投入しているわけでもないので"彼女相手なら"ただのパーティグッズだろう。
当然他の奴相手にこんな危険なことはしない。誰がするかと。
そう、不安な事柄をもう少し思い出してしまった。例えば他のアークスが侵入してしまった、とか。原生種がかかるぐらいなら仕方のないことだしそれはそれで精度は証明できるから問題ないのだが、人間をしとめましたとあってはそうはいかない。絶大な責任問題が発生するので今日という日は似たような規約違反にもマップ外をうろつく奴や迷子がいないことをリンクは祈るばかりであった。
そんな明らかな人の命や自分の今後の人生を天秤をかけておいて、リンクはゾクゾクと口角が上がりはじめた。
自分の思い付きや行動が、計画が、技能が、どこまでうまく事を転がすことができるか見てみたい。そういうことはきっと誰にでもある、と思う。リンクはこの上なくニヤニヤしながら自己正当化を始める。鼻歌をいつしか口ずさみながら、アナログな火種の用意をしておく。
今日は晴れていて、気分がいい。空気は新鮮で、風向きも良好。木漏れ日がきらめいて、木の葉がさわさわと愛らしく囁き合っている。
間違いなく、絶好の闘争日和だ。
……小枝の折れる音がする。リンクはその長い耳をひそめ、そっと胸元に火種を入れた袋をしまう。
聞き間違いじゃない。獣じゃない。人間の歩く速度だ。大股だ。
――来た。
リンクはそう確信し、木製の弓に矢をつがえ膝を立てる。呼吸を森と合わせ沈黙する。
待ち構えていた相手である"彼女"は、鳥も追い出す声量で宣戦布告し始めた。
「おいリンク、いるんだろう! アタシゃ年甲斐もなく森でかくれんぼしにきたわけじゃないんでね! そろそろ出てきたらどうなんだい!?」
ご機嫌な鬼に、まぁそういうなよ、と心の中で苦笑しつつ返してはやらない。呼吸を乱すわけにはいかないもので。本気で相手をさせていただく所存でございます。と、目元を笑わす。
おそらく適正距離に入っただろうというところで、手頃な石をまずはかなりな勢いで真上に投げる。
上にある木の葉ががさっ、と音を立てる。
間髪おかず左手側の木の幹に向けて石をぶつける。跳ね返って転がる。
そうやって視線を誘導して、今度は右手側の遠くに張っておいたロープに矢を射がける。
プツン、と心の中で擬音を再生して、ご定番なご挨拶として丸太が振り子のように彼女めがけて振り落とされる。
「ほう」
そう漏らしたのが耳に届き、次にはバキバキとまことやかましい大木の粉砕音が響き渡る。
まるで重機か何かで噛み砕いたかのような音だが、重機は持ちこまれていないので彼女が重機だ。
左手側に散らばる木片の様子を見て、ナックルかダブルセイバーか……と目算をつけつつ、まぁそうなると思った、とばかりにしらとした表情で次のロープに矢をかける。
ガサ、という音を立てて、先ほど丸太が動作した地点からバケツの水がひっくり返ったような水音が立つ。せらせらとただ水が溜まっていき、流れゆく。
期待に足首を動かした木の葉の音と、鼻で笑う空気を感じてリンクは僅かに頷く。
「どうせまだなにかあるんだろう!?」
御明察。フォトンの炎を纏い突っ込んでいった先を涼やかに確認して静かに立ち上がる。
奴が立ち止まった先の地面が、キャストの体重に耐えかねて崩れ落ちた。
フレンドのわご姉貴をお借りしましたが力尽きた。
この後見つかってもなおトラップを作動させながら戦い続けしまいにゃ森を焼き払いマグマを流し大規模な仕掛けで追い詰めていき炎が燃え盛り焼け落ちていく森をバックに打ち合いをするとかいうそんな感じのところまで考えといたらしい。それリンク先輩懲戒処分待ったなしじゃないですかね。