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―Collaboration

Episode4
アークスの休日

  今、オラクルの暦の上では、夏、というものになるらしい。

 期間限定品、とナウラのケーキ屋で販売されていたパフェの入った白い箱を丁寧に両手に抱えて運び、マルスが真っ先に向かったのはエステルも住むサイラたちのルーム。

 扉が電子音を立てて開き、挨拶をしようと口を開くが、視界の限りでは誰もいない。

 多忙なアークスにありがちなことだから特別驚きもしないものの、一応隣の部屋を見に行く。

 ……すると、一家の四女ステラがロングチェアに横になってすぅすぅと寝息を立てているのが見えた。風鈴の音が涼し気だ。

 可愛らしい寝顔。白に朱色ののった頬をふにふにと突きたい衝動に駆られつつ、そっとその部屋を出る。

 よく眠っているようだから、起こすのも悪いだろう。

 大声で挨拶しなくて良かった、と思いながら、マルスは手近なテーブルにパフェ入りの箱を置く。

 さて。

 勿論このまま帰っても良いのだが、せっかく少々珍しい場面に出くわしたのだ。

 デザートを届けるのはいつものことだし、もう少し何か、あとで驚かせるようなまねがしたい。

 良いことを思いついてしまったマルスは、笑いを堪えながら、ステラの寝ている部屋に忍び込む。

 そして空中に指を滑らせ、撮影機能を呼び出す。

 これは本来状況報告などに使われるはずだった機能なのだが、専ら観光撮影に使うアークスの方が多い。

 そういうわけで(どういうわけだか知らないが)、寝ているステラを遠景に、マルスは笑顔で手を振り記念写真を撮ってみた。

 ……直ちに振り返り、ささっと何でもないふりをして静かに近くのソファに座る。

 そして先程撮った写真を開き、くすっ、と笑みをこぼす。

 このいたずら精神は、そして発想は、完全にリンクから移ったものだろう。

 帰ったらリンクにも見せてやろう、などとニコニコしながら、それでもなんだかやっぱり暇なので、ステラが起きるか、他の家主の誰かが帰ってくるまで待ってみることにした。

 一度静かに紅茶パックを取りに帰って、そして勝手に棚を漁り台所を借りて紅茶を入れて、座る。

 目が覚めたら驚くかなー、楽しみだなー、なんて思いながら紅茶を啜る。

 壁向かいでも風鈴の音が聞こえてくる。彼女の寝ている部屋はさぞかし風通しが良く、気持ちが良さそうだ。

 そうしてマルスが一人静かに自由気ままな茶会を楽しんでいると、ステラが眠っている方とは反対の部屋から、訝し気な顔をした、なんとリヴィスが顔を出してきた。

 あんまり意外なので、しかしプライバシーという観念の薄いアークスにとってこれまたありがちなことだから特別大声を張り上げることもなく(張り上げるとステラを起こしてしまう可能性もある)、きょとんと黙ってじっと見つめていると、リヴィスが指先を振り綴る。

 手元にメッセージウィンドウが立ち上がったためにそれを読み上げると、こう送ったらしい。

『お前、人んちでなにしてんだ』

 すかさず、こう送り返す。

『君こそなにしてるんだい』

 リヴィスの訝し気な顔も、マルスのきょとんとした顔も、お互い変わらないままに送り合う。

『俺? そこの部屋のロッキングチェアでうたたねしてましたが?』

『女の子の部屋に黙って入るのは流石にマナー違反だと思うな』

『その女の子の部屋のティーカップ勝手に使って紅茶啜ってる奴にだけは言われたくないわ』

『それもそうだね』

 どちらも特別反省の色はない。

 リヴィスがわざとらしく後ろ頭を掻き、マルスの目の前に座る。

『で? お前何でここに居るの?』

『何でって。君こそどうしてここに』

『俺はタイクツだから涼みに来たの。はいお坊ちゃまは』

『僕はスイーツを届けにきたんだ。みんなで食べようと思って買ってきたんだよ』

 マルスの口からキザったらしい台詞が何一つ臆面なく出てくる様子に、リヴィスがあからさまに顔を歪めながら白い箱を突く。

『何が入ってるの』

『パフェだね。期間限定の、マンゴーと、ベリーと、チョコだって』

『ふーん……。そんなにあるならひとつくれよ』

『だめ。人数分なんだ。……まぁ、今日は一緒に食べる気だったから、僕の分もあるんだけど……』

『じゃあそれでいいよ?』

『えっ。半分こでもする?』

『イヤ、ヤッパイラナイ……』

『こんなことならもう少し買ってくれば良かったね。今度は君たちも誘うよ』

『ええ……。いや、いいよ。お前、よくもまー女子ばっかのとこに入ってキャッキャウフフのお茶会とかできるよな?』

『キャッキャウフフかどうかはおいといて……楽しいよ?』

『なにを話すんだよ……』

『最新の戦術論を聞いても楽しいけど……、最近のお洒落の流行を聞いてるのも結構好きだな』

『……オマエ、実はオンナノコなんじゃないの?』

『そんなことはない』

『あっそう』

 チャットにも飽きてきたと見えて、頬杖を突きながらさぞ気になる様子で白い箱をじっと見つめてつついたり、何の意味もなく回したりと手遊びをしはじめる。

 パフェを崩されてはたまらないのでその様子を静かに見守っていたが、ふとリヴィスが気に入りそうな話題があることを思い出して文字を打つ。

『そういえばね。さっきステラが寝てる前で写真撮ったんだ』

『……は?』

 真顔で渾身のいたずらの報告をするマルスに対し、リヴィスはあっけにとられている。

『見る?』

 戸惑いがちの無言の肯定に、マルスはウィンドウを開く。

 リヴィスの顔が笑いを堪えて歪んだのをみて、マルスは満足げに微笑む。

『オモシロイじゃん。でもお前これ、オンナノコにやっちゃ駄目だろ。怒られるぞ?』

『え? どうして?』

『は?』

 笑いながらお互いの目が合うと、リヴィスは訝し気な顔に、マルスはきょとんとした顔に戻った。

 マルスはティーカップをそっと置き、一言送った。

『そろそろ帰ろっか』

『だな』

 二人揃って席を立った後、結局リヴィスは守護輝士団のルームにカキ氷を食べに来たのだった。

笹原さん宅のステラさん+αとびすさん宅のリヴィスさんをお借りしました。

捏造込み。この後全員揃ってめちゃめちゃSS撮影した。

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