
―Collaboration
Episode4
マルスとエステル
これはとあるクエストに、マルスが向かった時のことだ。
ゲートエリアの片隅で集まったうちの一人である、跳ねた青い髪を三つ編みにした少女に、じっと見つめられそれから溌溂とした笑顔で裾を掴まれた。
「なんか、ボクのおにいちゃんみたいだねっ!」
その後、大層懐かれたという。
そういう出来事があった。
……と、マルスは頭を抱えて自室に帰ってすぐリンクに話している。
マルスは子供が苦手らしい。
「いやあ、仲良くすればいいじゃん。良かったな? おにいちゃん!」
一方子供好きのリンクは微笑ましがって笑っている。
「子供に懐かれたことなんて今までなかった……」
「へー、お前、優しいし面倒見もいいのにな?」
「そんなの、百歩譲ってそうだとして、仲の良い人だけだよ……?」
言われてみれば、とリンクが思い返した。
最初の頃は、ユヅキもあまりマルスに声を掛けた様子はなかったし、ピットもマルスのことはどうも苦手らしかった。
マルスの子供、動物嫌いと、人見知りがきっと滲み出ているんだろう。
あるいは、子供と動物は勘がいいから、かもしれないが。
「どうしていいかわからないんだよね……、子供って、何を考えてるかわからないし……僕はそもそも何の経験もないからさぁ……」
マルスにとって、自分の幼児期など存在しない。
しなくはないが、あまりに人とはかけ離れている。
共感できるとっかかりもないから、苦手なのだ。
対応の仕方が、最適解がひとつもわからない。
「あぁー……。いやぁ……、適当に頷いてりゃいいんじゃないの? 確かにお前にとっちゃわけわからんことを言うかもしれないけど、大体の大人は子供の言う事なんかあんまわかっちゃいないぞ? 気にしなくてもいいんじゃないか?」
「適当にあしらってたら悪いんじゃないかなってすごく思うようになったんだ」
「適当にあしらってたのか……」
「昔は。ほんとに昔だよ? ピット君とだって、ちゃんと話したよ?」
「どんな感じで返事してたんだ」
「『あぁ、そうなんだ』」
「……もんのすんごい適当に聞き流してるな。そら、懐かれないわな」
「だって何返したらいいかわからないんだもの……」
リンクはそれはもう分かりやすく『考える人のポーズ』をした。
「ま、でもさ、別に気にしなくてもいいじゃん。そんな付き合いのある距離のヤツなの?」
「ユヅキ君とサイラさんって、よく喋ってるじゃないか。そこの子だし、僕も時々固定でお世話になってるんだよね」
「あぁー」
「ゼクシールがその子に抱き付こうとするもんだからその子も僕の後ろに隠れたりするしさぁ! 僕は笑ってるしかできなくてっ!」
「かわいいじゃん。つーか、ゼクシールは相変わらず変態かよ」
「前はああじゃなかったと思ったんだけど……」
「面白いから別にいいけどな」
「もう女装はしないのかな」
「彼女ができてから可愛い服をそいつに貢いでもうやらなくなったらしい」
「彼に彼女が!?」
「ごめん。彼女は嘘。ただの同業のデューマンのコで、冷たくあしらわれているらしい」
「そうか……。君も君でどこからそんなゴシップを……」
「ナイショ」
両手をお面のようにして顔を隠したので、リンクはこれ以上喋る気がないらしい。
マルスがその仕草を見て思い出したように顔を覆って首を横に振る。
「わからないっ!! 小さい子への対応の仕方が! わからないよ!」
「……って、言われてもなぁー……。普通にしてればいいんじゃないかとしか……」
リンクが、パチン、と指を鳴らす。
「お前、これを機会に人見知りをどうにかしてみたら? せっかくなんだからその子と仲良くなってみたらいい。子供ってかわいいぞ」
「どうやって……」
「そうだなー、とりあえず、次会った時その子が何を好きか探りを入れてみりゃあいい。できるだろ?」
「何が好きか……、か……」
「そうだそうだ。なんて名前の子だ?」
少し視線を空中に投げだしたマルスが、口を開く。
「……エステル。青い髪の子で、背はユヅキ君より低いぐらい。サイラさんの教育が行き届いてるのか装備は良かった、称号はパフェ・ア・ラ・モード……クラスはSuGuで……」
「待て……」
リンクが真顔になっている。
「お前は探偵かなにかか」
「え、装備情報を盗み見ただけだよ……」
「お前な……」
マルスは元々諜報員だったのもあって、気になった相手の公開情報はその場で一通りチェックしてしまうらしい。
リンクに対しても、声をかけるよりずっと前に情報収集をしていたらしく、それが分かった時には驚愕した。
マルスが今挙げたぐらいの情報量なら他のアークスでもチェックすることは多いらしいが、リンクはそういうタイプではないので軽く引いている。
「公開情報だからって事前に何もかも見てそれをネタに話しかけたら気持ち悪いだろ……。相手の詳しいことは会話の中で知っていけよ……」
「えっ……やっぱりそうなの……? いや、そう思ってまだきっちり調査まではしてないんだけど、えっと、装備情報ぐらいは見るでしょう……?」
「"まだ"じゃねーよ。しなくていいんだよ! 子供にガチの諜報力を見せて怖がらせてどうする、もっと浅いところから攻めろ!」
「やだな! そんな諜報力をひけらかしたりなんてしないよ、ただどういう話が良くてどういう話が駄目かあらかじめ知っておきたいだけで!」
「うるせー! ゆっくり攻めろっていってんだろ! 一方的に手札を握るな! お互いに持ってる情報量を揃えながら話していけ! ストーカーじゃないんだぞ!」
「リンクに、怒られた…………」
「怒ってはないけどな! まぁ、いいよ。とりあえず、SuGuってことはマロン使いなんだろ? 称号も甘そうだし、小さい女の子に甘いものはあまり外れないだろうし、次に会った時お菓子とかそっちの話振ってみてやりゃあいいじゃんか。お前、ティータイムの習慣があるんだしうまくいきゃ盛り上がれるかもしれないぞ!」
聞いてる? と、しょげているマルスの肩をつつく。
「うん……、頑張ってみるよ」
「おー。それにさ、女の子なんだろ? だったらなおさら、子供だと思って構えすぎなくても、普通にしてりゃいいって。女の子って、マセてるからな!」
「詳しいね……リンク、そんなに沢山女の子の相手を……」
「大丈夫か、お前? 大丈夫か?」
「たぶん……あるいは……きっと」
「しっかりしてくれ」
首を横にぶんぶんと振ったマルスが、しゃきっと顔を上げて胸を張る。
「……よし。じゃあ、今夜の緊急に声が掛かったら聞いてみよう」
「お。その意気だぞ」
「その前に何かデザートを買ってくる」
「え」
マルスが立ち上がって支度を始めている。
「流石にプレゼントはまだ早いんじゃないのか……」
「話のネタにするだけで、もし欲しそうだったらそのままあげるんだよ」
「欲しがらなかったらどうするんだよ」
「君が食べていいよ」
「……。わーい」
思い立ってからの行動は早い男で、本当に出掛けて行ってしまった。
ぽつんと残されたリンクが、椅子の背もたれに肘を乗せたままぽかんとしている。
「まぁ、うん、頑張れ」
後日より、このデザート作戦が当たりと知るや否や、新作のデザートを市街で見つける度にマルスはまるで貢ぎ物のようにエステルとその身内の娘たちの分を手渡しに行くようになったのだった。
笹原さん宅のエステルちゃん(+α)を勝手にお借りしました。ごめんなさい
笹原さん宅の子がどの娘さんも可愛らしくて常々なにか捏造したいとウズウズしてたんですがAW合わせの件があったのでその辺りから勝手に書いてみちゃいました
エステルちゃん可愛い