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―HISTORY

Episode4 A.P.241/4/17 15:30
マザーの策略

  ―― // A.P.241/4/17/15:30 // ――

 マルスに誘われるまま、のんびりと紅茶をもらいながら談笑していたリンク。

 議題は、じきに出撃許可が下る予定の、アムドゥスキアに出現した壊世区域についてだった。

 突如、けたたましい警告音が鳴り響く。

 大規模作戦が行われる予定はなかったはず。

「緊急警報か……? ダークファルスの模倣体でも接近したか……」

 ……しかし、然るべきアナウンスはない。

 ではこの警報が何かという話なのだが、何の情報も発信されてこない。

「……? おかしいね、またアナウンスの放送音量スイッチ切ってたりしない?」

「いや……」

 リンクが立ち上がり、部屋の入口に備え付けられたボリュームスイッチを抓み、操作する。

「何のアナウンスもないな……」

 二人が顔を見合わせた時、入口の扉が勢いよく開き(いや、いつも通りの速度なのだが)赤毛の少女が指先を天に向けキメポーズでドヤ顔を決めていた。

「ちょっと二人共! 生存してんならぼけっとしてないで対応よ対応! すぐそこまで幻創種侵入よ!」

 見知った顔に指をさされ、リンクがのけぞる。

 

「はあっ!? なんだよ、緊急作戦かなんかか」

「違うわ! これガチの緊急事態よ! ガチガチのガチな奴よ! アークスシップのそこら中から幻創種ふって湧いてきててそれはもうパニックなのよ! 通信回路が息してないからこの私がわざわざあんたたちにご足労したってわけ、今すぐ仕事してちょうだい!」

「なんてこった、そりゃマジか」

「大マジ」

 信じられないなら外を見ればいい! とピュイに指差されるまま廊下の外を見てみれば、見覚えのあるカラスがこちらへ飛んできて、たった今ピュイのデュアルブレードの峰で叩き落とされ掻き消えたところであった。

「……ねっ。」

 リンクが真剣な目つきで振り返った先では、既に茶菓子の器に蓋をしたマルスが自分と相棒の分の得物を手に見つめていたところであった。

 投げ渡された武器を掴み、ピュイの靡いた赤毛を追ってリンクもマルスも走り出した。

  同時刻、地球。

 相沢のワンルームの片隅、パイプ椅子にちょこんと腰掛けているメイド服姿のメリルが、困り眉をしている。

 じっと見つめる先にはPCと、スマート端末、タブレット端末を操作している相沢の横顔がある。

「うーん……」

 唸るようにふと漏らし、ちらりとこちらを見やった顔には焦燥の色が見える。

 小首を傾げるメリルの気配に相沢は一瞬視線が揺らぐが、一人暮らし用の小ぶりな冷蔵庫を指差す。

「……昨日一緒に買ったプリンがあるよ。いつでも食べてていいよ」

「うん……。」

 反応がいまいち悪く、この少女を誤魔化しておけるのは数時間が限度だろうと相沢も悟った。

 どうせなんらかの原因で一時的に通信状態が悪くなっただけであり、すぐに復旧するだろうし、この程度の事をむやみやたらに知らせる気はない。

 相沢は大して重大に構えてはいないが、メリルはきっとそうは思わないで大慌てしてしまうことだろう。

 もしも万が一その大げさな考えが的中したとして、是非とも一日そこらでなんとかなってほしい物だと考える。

「……なにか、あった……?」

「え? ううん。よくある範囲のやつ」

「えーっ……、そっかぁ……。」

 メリルの若干浮いた腰を、極めて自然な一言で制し着席し直させることに成功した相沢。

 しかし、メリルには見えていた。相沢の液晶に移るエラーボックス。

 そしてその背景にあるものが、アークスとの通信を司るアプリケーションのUIであることが……。

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