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―HISTORY

Episode4 A.P.239/1/15
krc':ler 

 

 

 

 

 

  《虚空機関》-ヴォイド-。

 つい先日まで悪名高きルーサーが総長を務めていた、アークス組織に蔓延る負の遺産。

 『アークスのために様々な生命の進化を研究する組織』と称して行われていた、 廃人寸前までの人体実験、人種改造、クローニング、造龍計画、惑星の生態系を無視した大量の実験生物の作成と放流。そういった非人道的研究の数々。

 ルーサーが死に、シオンが死に、シャオが名実ともにアークスシップの主となった今、ついにメスが入れられ解体される運びとなった。

 ユヅキはその知らせを聞き、かの諸悪の根源たる組織の最後の様子を見に行くことにした。

 色々と当人や友人、宇宙全体にとんでもない迷惑をかけられて腹を立てていたのもあるが、何より一番身近なこととしてかの研究員の所属していた場というのもある。もはやユヅキにとってこの虚空機関の為した何もかもが他人事では済まなかった。

 実験器具等の解体、運び出し、資料の整理のために開け放された扉に控えめに顔を覗かせ、申し訳程度の控えめなノックをしたものの、忙しなく動き回る元研究員たちやその手伝いに聞こえるはずもない。か細い声で挨拶をして足を踏み入れると、ちらりと誰かが品定めをした以外大して反応はされなかった。普通の子供ならこんな最重要機密の詰まった泥の中などいくらアークスといえど追い返されてしかるべきだが、恐らくシャオから話が通っているのだろう。このような胡散臭い人々にアークスカードをわざわざ提示して自己紹介するのも気が引けていたユヅキにとってはありがたい話だった。物や資料の散乱した室内を見回しながらおずおずと進んでいる最中に「資料を乱したり横倒しにしたりしないように」と物を運ぶ通りすがりに注意された。触ろうとした資料に思わず手を引いて、それから両手で崩さないように積み重なった一枚を慎重に拾いあげて適当な場所から目を通してみる。数式と奇妙なグラフ。過剰書きにされた実験項目。見るもおぞましい常軌を逸した文章の羅列。何だかこれ以上見ていると吐き気に襲われるのではないかという気がしてそっと戻す。そこからふと顔を上げると、視界の端の奥の方に多くの人が見えた。

 白衣の研究員たちに囲まれて、裸に白いタオルを背中からかぶせられて座っている金髪の男性。その横顔が随分と整っていて、白い肌と金糸の睫毛がきらめいて想像を絶するほど美しかった。そのような生きた彫像の周りで立ち尽くす人間は、どれもこれも職務を忘れ観衆と化しているようだ。

「……その人は?」

 知らず知らずと吸い寄せられて、気が付いたら言葉を口にしていたことにはっとなって研究員を見上げると、同じくその一声でようやく目線が合った研究員が応えた。

「……クローンですよ。一部の市民は並外れた適正があってもアークスに志願しないことがありましたから、この研究部ではそういった優秀な市民のもとから遺伝子情報を盗み取り無断でクローンを生成して代わりにアークスをやらせようとしていたようです。ここにいる全てが、アークスじゃないか当時アークスに志願しなかった市民のクローンです」

 見れば辺りには白衣以外の沢山の人間がいる、男女も年齢もさまざまで、支給を受けた服を着ようとしていたり、もう既に着用を終え説明を受けている者もいる。奥では培養槽から出されたばかりなのであろう、研究員のタオルにもみくちゃに拭かれている最中の者。これら全てが無断で造られたこの船団にいる誰かさんたちのクローンだというのか。そして、今目の前の人間も。

 無意識のままに資料を乞い、衝動の走るままに目が内容を追った。パーソナリティデータや遺伝情報を見て反射的に顔を上げた時、ずっとこちらを見つめていたのだろう、男性の瞳と目が合った。

「……あなた、リンクさん、の……?」

 震える声で呟いた。褪せた金髪と整った目鼻立ちと、青い瞳にややアルビノめいた赤い色素。じっ、と射るような力強い視線にユヅキは慄いた。

 白いタオルの下の彼の髪からぽたりと培養液のしずくが落ちる。

「この人たち、これからどうなるんですか」

「然るべき手続きを取ってアークスに」

「アークスにするんですか!? 彼ら、無断のクローンなんでしょう!?」

「だからといって、殺処分するわけにもいきませんからね……」

「状況観察はするんでしょうね!?」

「もちろん、多少は……しかしメンテナンスは行えません。もうこの研究機関は解体されてしまいますから」

「なんですって……それじゃ、無責任にも野放しにするってことじゃないですか……」

 後ろを通りすぎていくクローンたち。彼らはこれから先ユヅキやユヅキの友人らと調査先を同じくすることだってあり得るだろう。当たり前に両親の元で産まれてきた人達と混ざり、クローン人間が。あのルーサーの残り香が。

「この人のカードは既に作成済みなんですか」

「いえ、まだ……」

 それが一体、とばかりに困惑した様子で語尾が消え入る。ユヅキは焦燥のままに気迫を持って強い調子で言った。

「この人、うちで様子を見ます」

「はい?」

「僕のIDでアークス登録をさせてください。僕のところで面倒を見るんです。アークスなんだ、教える人が絶対に必要なんですよ」

 金糸の男に振り返る。口を固く結んでただ一点ユヅキの瞳のみをその双眼で見つめていた彼が、いつの間にか口角を妖しく上げている。そのような意図の読み取れない表情さえ、この造形美からはぞっとするほど様になった。

「……この人の名前はあるんですか?」

 研究員がユヅキの手にする資料の端を指差す。『krɔ'ːlər』の文字列。

「資料を見る限り唯一そのクローンだけが名前を聞かれてそのように応えたらしいんですが……発声がどうも明瞭に感じられず、とりあえず発音記号で近いように残しておいたようですね。生成番号とは別に名前らしきものを持ってるのは彼だけです」

 ユヅキが目を合わせ、名前を問う。間を置いて、たった一言返ってきた単語は確かに耳に馴染まない言葉。

「……クロ、ラ、……さん?」

 遠慮がちに、ユヅキがただ聞こえる通りに反復する。そうすると彼はほのかに微笑んでみせた。ユヅキはわけもわからないほど咄嗟に右手を彼の胸の前に突き出した。

「クロラさん、僕と一緒に来てください。会わせたい人がいるんです」

 褪せた金髪のその男、クロラは、差し出された右手をそっと指先でなぞった後、その手を握った。

  桜の花びら舞う人様のチームルームで、わめき倒している男がいる。

「考えてもみてくれ、ある日突然俺には実はクローンがいて、立派に成長して今横にいるんだ、って話を、真面目に!」

 それに応答する一同は大変に面白おかしく聞いていた。

 腕を組んでうーん、と考えるように唸った後、能天気な回答をしたのはピット。

「いいんじゃないですか? 面白いと思いますよ?」

「アホか! お前、真剣に自分の身になって考えてないな。例えばそう、生き別れの一卵性双生児が横にいるって言ったら!?」

「感動してテンションが上がりますぅっ!」

「そうかよ!! はい次、パルテナさんはッ!」

 くすくすと笑っていたところを名指しされた女性が、驚きを込めてからかった。

「あら。私も、きっと同じような感想になりますよ? 身近に美男子が増えて私はとっても幸福ですね」

「そそ。いいじゃん? イケメンの遺伝子は数多く残しておくべきよ?」

 澄まし顔のパルテナに乗っかったのはピュイ。それはもう慌てふためきようを気に入ってにやにやしている。

 わめいていた男、リンクがぱちぱちと瞬きする。リンクが手をかけて掴んでいるのはそのクローン相手の男の両肩。

 それを強引に引っ張り寄せて自分の顔と並べる。

「よしじゃあ、こいつも俺も美男子なのは百歩譲って一旦認めておくとしよう。それはそれとして、似てると思うか?」

 うーん、と苦い笑いを浮かべるピュイ。

「似てんじゃない?」

「瓜二つか?」

「それはどうだろう」

「そうだろう?」

 納得する答えを得たらしく頷くリンク。そして並べたまま男の顔に指をさす。

「俺がまぁ例えば平均程度には美男子だったとしても、少なくとも俺の遺伝子からこんな美形が産まれるのは何かがおかしい。俺はここまでじゃない」

「リンクは美形だよ」

「お前はちょっと黙ってろ」

 にやつくマルスの横やりを一蹴して続ける。

「わかった。俺がこんなに騒いでいる理由がピンと来ないお前らのために恥を捨ててもっとわかりやすい話をしよう」

 片手を肩から離して腰にあて、しゃんと立つように無言の圧力を掛けたのちに恥も体面もなく失礼にも指をさす。

「背が俺よりも圧倒的に高すぎないか!?」

 笑いを堪えきれなくなって噴き出すピュイとピット。リンクの必死な顔と声ときたら。

「それで!? あんたそんなこと言いにここ来たわけ!?」

「別にそういうわけじゃないが!? 顔見せさせにきたかっただけだが!?」

 恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらキレるリンクにまたどっと笑いが巻き起こる。

「あんた、なかなか可愛いとこあるんじゃん。知らなかったわ、ちょー面白い」

「ふざけるなよ!? 何で背が高いんだ!? ふざけるなよ!?」

「リンクはそのままの方が可愛いよ」

「お前はちょっと黙ってろ」

 ひとしきり笑い通したピュイの横で、パルテナが繋ぐ。

「でも、確かにどうしてこう少しばかり形質が違うのでしょう? 成体であるリンクを元にしたクローニング……なんでしたよね?」

「それが謎なんだ! クローンっつーのは、いわば性格違いのすっかりコピー品みたいなもんだと思ってたが違うのか?」

 ユヅキに手渡された資料をマルスが読解している。

「うーん、ダーカー側の仕組みとは違うみたいなんだよね。体細胞組織を完全に再現して3Dプリンタのごとく生成する技術はオラクル側では確立していなかったから、受精卵の状態から既にコピーを隠し持っておいて、オリジナルが一定量成長して形質が明らかになった後に培養して急速成長させてたみたい」

「げぇっ、ナニソレ。つまりは私たちもルーサーに保存されてはいたってわけ? 他人事じゃなさすぎてやばやばね」

 ピュイが舌を出す。本人を前にした下品な所作をパルテナにたしなめられる。

「ただ、それでも個人の成長や細かい形質は遺伝子だけで決まるものじゃなくて、環境や本人の性格や習慣、数々の経験にもよるから、完全再現することはできないんだよね。違う環境で育ったら性格も違うのと一緒」

「フーン。じゃあ俺も培養液の中で育ったら背の高い美男子になれたかもしれないのか?」

「リンクはそのままで美男子だよ」

「もういいお前には聞かん」

「拗ねないで……」

 眉尻を下げて切なそうににやつくマルスを無視してじったりとクロラの顔を覗き込むリンク。

「お前、生まれていきなりこんなわけわからん話されてけったいだな?」

「思ってたんですけど、ご本人様目の前にしてこんな話してていいんですか? なんていうかその、ダイジョウブ?」

 ピットがケゲンな顔で気を遣う。リンクが金髪を揺らして振り返る。

「んなこといったって、こいつ自身が俺のクローンでそれがどういうものかってことを知った上で、それを受け入れて立派に生きていくしかないだろ。隠し通したってどうせすぐわかることなんだし意味ねーって。だから俺はきちんと家族として責任を持って……」

「……家族として?」

 唐突に発せられた声に振り返ったリンクの顎が掴まれ、気が付けば腰を抱かれて唇を奪われていた。

 ややあってほどかれる腕。呆然と口を開けてリンクが見つめる先にあるのは薄く笑ったクロラの顔。

 ピット、ピュイは唖然とし、パルテナは口元を押さえ、マルスは半分鞘に手を掛けて睨みはじめていた。

「えぇっと、まぁそら。座れよ……飲み物いるか? 何がいい?」

 大人しく指示された通りにソファの端にクロラが座る。マルスがその真後ろで冷たい目線を送っている。

 結局あの後尻尾を巻いて逃げてきた当事者たちは、今雁首揃えてリンクの自室のリビングにいる。マルスと、面白がって付いてきたピュイのオマケ付き。特に返事もなく膝に手を添えて座っているクロラはまったく音沙汰がない様子で、さも人形のような特異な収まりようを見せている。先の悪戯が冗談かのようだ。

「……ねぇ。彼を本当に迎え入れていいの?」

「はぁ? そりゃどういう意味だ」

「どうって」

 マルスは眉と一緒に声をひそめる。

「ルーサーの、でしょう」

「言いたいことはもちろんわかるが、次にこいつの前で言ったらぶっとばすぞ」

 それを聞いてマルスが遠慮なくリンクを睨み倒した。

「随分気に入ってるね。あれがどんな奴か、君は知らない。君はお人好しが過ぎるんだ」

「なんだ。待て待て。嫉妬か? 手を間違えるとはらしくない。こいつがそいつと関係があるかはもっと慎重に様子を見るべきじゃなかったか?」

「……それは確かに僕のたった今犯した失態なんだけど。でも君のそれはさっき君が言ったことと違うじゃないか。チームルームでなんて言った?『隠さず受け入れてもらわないと』じゃなかった?」

「俺の中ではそれなりに順番があったんだが。……まぁいい。確かにそうだ。なぁクロラ、質問なんだがお前ルーサーのことは知ってるか?」

 マルスが腕を組んで見守る中で、しかし当のクロラは瞳孔すら動かす様子がない。リンクが真正面に収まり応答を求め、もう一度同じ質問をしてようやく自分に聞かれていることを理解したようで、返事がかえる。

「……知らないね」

 首を横に振りながら出された言葉に、リンクが困った顔でマルスを見上げる。

「らしいぞ?」

 マルスは両腕を組んだまま肩を跳ね上げ、眉をつった。

  クロラのことは資料を見たリンクが世話役を引き受けると言ってくれた。

 彼ならばアークスとしての実力も申し分ない。それに彼の面倒見の良さや人当たりは共に暮らした間によく知るところであり、さらに滲み出る教養の深さを鑑みるに教師役としてこれ以上無く適任だ、とユヅキは思っている。ユヅキにとってリンクは理想的な大人の男だった。それに、仮に彼が教育に手を焼きストレスを溜めたことがあったとしても、今ならば良き相棒としてマルスもついている。当面の間はこれで万事解決だろう。

 安心してショップエリアを歩き次の仕事に備えて買い出しを済ませておこうとしていたユヅキに、シャオが声を掛ける。

「やぁ、ユヅキ。調子はどう?」

「シャオ! 僕は絶好調だよ」

 ぱたぱたと近付きながら手を振るユヅキに、シャオは片手を上げて応える。

「どうだった? 虚空機関の最期は」

「あー……。どう、っていっても。意外とただの研究室だったなぁ……。『あの人たちがここにいたんだ』っていう、嫌な感覚ぐらいで」

 ユヅキにとってはその嫌な感覚そのものが一番重要ではあった。不快感を声色に表す。

「そんなものさ! 悪いのは何でも道具じゃなくて、その扱われ方だとか、扱う人間の心だからね」

 ユヅキは頷く。シャオの言葉はいつだってユヅキの心身にすっと入ってきて気持ちを整理してくれる。

 そんなシャオが明らかに声のトーンを落として、周囲に気を配って声をひそめる。

「それで、”何か見つけたかい”?」

「え」

 ユヅキが半歩前に出て伺うように顔を近づける。シャオが続けた。

「君が連れ帰ったあのクローン。少し気を付けた方がいい」

 即座に脳裏によぎる彼の顔。ユヅキは顔をしかめて詳細を求める。

「……なんだかこう~……。嫌な予感がするんだよね! 不思議なことに、君の選んだクローンだけがさ……」

 妙にいつになく歯切れの悪い言葉を並べたてるシャオに、ユヅキは流石に訝しんだ。訝しみながらも汲んだ。

「……ルーサーの、だから?」

「違う違う。そういうことじゃないんだ。生みの人間がどうであれ、”彼ら”にはもうルーサーに縁がない。その心配はしなくていい……と、僕の演算の結果から言っておくよ。問題はそこじゃなくてね……」

「そこじゃなく、て?」

 難しい顔をして唸り始めるシャオ。本当の本当にいつになく歯切れが悪い。

「ごめん、ちょっと僕も曖昧な状態で言い過ぎた。もう少しこちらからも様子を見てみたいと思うんだけどどうかな」

「どうかな、って……。そもそも、どうして僕が彼を呼びこんだって知ってるのさ」

「それを僕に聞くのかな?」

 手を踊らせ、澄まし顔でシャオが見つめる。彼は少年のなりをしてマザーシップの管理そのもの。

「はあ……。いったいプライバシーはどうなってるのさ」

「まぁまぁ! 僕だって、そんな四六時中見て回ってるわけじゃないんだよ? 何かまずいことが起こった時のために、特別なタイミングでのみ監視させてもらってもいいか、ってこと!」

「もー、勝手にしなよ。断る権限が僕にあるの?」

「ないわけじゃー、ないよぉ? 僕だって、強要はできないしね? ……なにより、これからのアークスには自分たちの手で未来を掴んでいってほしい」

 真面目なトーンで締めくくってみせはしたが、言ってることはそこそこ横暴だ。ユヅキはじったりと見つめ、呆れたようにわざとらしいため息をつく。

「クロラさんに関係することだけですよ! あと、僕だって知りたいことと知りたくないことがありますし! 僕や他のメンバーのプライバシーは十二分に尊重したうえで、何かどうしても怪しいことがあった時だけ見解をまとめてから僕に話してくださいっ!」

「わかったわかった、ごめんごめん! もちろんそうさせてもらうよ。約束する」

「絶対ですよ」

「もちろん」

 頬を膨ませて首をひねって覗き込み睨んでいるユヅキを見てシャオから笑いがこぼれる。それを見てユヅキも頬を弾けさせてあどけなく笑う。

「ああ、ところでどうしてわざわざ持ち帰ったりなんかしたの? 別に、僕に言ってくれれば多少の様子ぐらいは見れたと思うよ?」

「……ん? んー、だって、リンクさんのクローンだったから……」

 自分で口にしておきながら、やや理由としては弱い気もしてくる。咄嗟に考えながらその時の状況を思い出す。

「だって、クローンを目の当たりにしたクラリスクレイスは、あんな反応をしたでしょ? 僕だって、いきなり自分そっくりの人が目の前に現れたらびっくりしたもの。本当は全員引き取って、元になった本人を探して慎重に受け渡したりあるいは鉢合わせないようにスケジュールを組もうか、って考えたんだけど……」

「全員?」

「そうそう。シャオになんとかして、って言うにはなんだかもう時間がないみたいだったし……。でも、もうほとんど全員が行き先決まっちゃってたみたいだったから、まだ決まってなくて、それもリンクさんのだってわかってるならあの人だけでも僕の手元に、って思ったんだ」

 シャオはあっけにとられる。ユヅキは十数人というクローン全てを管理するつもりだったのかと。

「ま、まぁ……実際そんな経済力は僕の家計にはそろそろないんですけども……」

「わかった。君の意思は汲んだよ。他のクローンたちについては、僕が様子を見よう。確かにそのまま放流だなんて人権問題だからね」

「でしょう。後始末まで勝手な人たちでした」

 すっきりと悪態を吐くユヅキの気抜けした表情に、シャオは笑いの息が漏れる。

「確かにね。だからといっていちいち君が後始末をする必要もないんだけど……ま、こればっかりは君の性分なんだろうね! できるだけのカバーはするから、困ったことがあったらいつでも相談してよ」

「ありがとう、シャオ!」

 にっこりと笑うユヅキ。どうやら改める気はないらしかった。

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