
―HISTORY
Episode3 A.P.240/12/31
不在
「さー! 年越し蕎麦を楽しみましょーっ! ……っていう暇は、まぁやっぱりないのよねぇ」
真っ赤な緊急警報に染まるロビー。
ゲートエリアにて。一同は戦闘準備を整えて揃っていた。
日は12月31日。時間は深夜11時50分。
「どんちゃん酒でも飲みながら、新年を祝おうってぐらいもさせてくれねーのかよ」
ふらつく頭で水を飲み干し口元を拭いながら、リンクが映像を睨む。
「ほんと、こーんな時ぐらい、あっちのユヅキだってちったぁ休んでりゃいーのに……」
ピュイも警報一色の天井を見上げて困ったようにため息をつく。
「案外、こんな時だからこそはるばる逢いにきたのかもしれないぜ」
「あはは、それはあるかも」
リンクの酔っ払った軽口に、マルスが笑う。
「……でも、相手はなんといっても【深遠なる闇】だ。手加減はしてくれないだろう」
カタナに手を添えたマルスの言葉に、一層ぴりりと空気が張り詰める。
「行くしかないわね」
「作戦通りに」
「全力で」
ピュイが全員に目配せして、全員が頷く。
「パーティを組むわよ。リンクはマルスと組んで。私をリーダーに、メリルとクロラ。ついてきて」
マルスが頷く。
合理的だ、と。
構成は以下の通り。
ピュイ、バウンサーハンター。
メリル、テクターフォース。
クロラ、フォースガンナー。
リンク、マルス、共にブレイバーハンター。
「シップを出すわ! 皆、適切な所持品の用意は忘れずに、ね?」
にいっと笑い、場を和ませて出発した。
キャンプシップに運ばれる。
降り立ったのは、足場となった平たい特殊シップの上。
噂に聞いていた、防護性能に特化した無人のもの。
一同、テレポーターの輪の中に。
メリルが震える手でウォンドを強く握り締め、シフタ、デバンド、レスタの順で掛ける。
リンクが支援に感謝を伝え、優しく背中を叩く。
メリルには初めての、そして我々にとっては何度か目の……。
「我らがユヅキとの闘いの始まりだ」
果ての異形と化した宇宙をその瞳に映すメリル。
ピュイがわざとらしくはしゃぐ。
「その前に。【双子】が先よ」
「ふっ、前哨戦だな」
「ダークファルスを丸々一体担当するんだ。油断は禁物だよ」
「たり前だ」
リンク、マルスも黙り、【双子】の笑い声が響く。
ピュイが静かにテレポーターを起動し、デュアルブレードを握り締める。
《 緊急警報発令。惑星ナベリウスの上空にて【深遠なる闇】の反応が…… 》
それぞれの頭に響くアナウンス。
カウントダウンの後、転送が始まった。
踊る巨大な城、【双子】。
全員が一斉に駆けた。
ピュイが吠える。
「HAPPY NEW YEAR!!」
フォトンブレードを投擲、それに追いつかんという速度で【双子】の脚に飛びこむ。
「Hey、お年玉はいるか!?」
リンクの撃ちこんだ矢に反応した三本のフォトンの矢が異次元より出現、ダメージが積み重なり爆矢が炸裂する。
コアはまだ潰れない。
唸るリンクだがそうこなくてはとばかりに口角が上がっている。
「任せな」
飛び出したのは白いボディと緑のラインの女性キャスト。
ナックルで炎を纏ってコアを渾身の力で殴りつける。
「お前……!」
驚き弓を下げるリンクに、ミラージュエスケープしながら困惑したメリルが並ぶ。
あっという間に脚をひとつ潰して見せた彼女と、その対角線上でも脚のコアが潰れ【双子】がダウンする。
だらりと垂れた舌。
「おら、何ぼさっとしてるんだい! こんな面白そうな闘争にアタシを呼ばないとはずるいじゃないか!」
乱暴に手招きする姿。
ピュイがブレード滑空しながら寄ってくる。
「わご!?」
リンクが親指を突き出す。
マルスがカタナの超スピードで斬り込み、舌コアに白い刃を食いこませる。
「これはこれは……百人力だ」
リンクが笑いながら、爆裂矢をコアに突き立て弓全体に全身のフォトンを乗せて撃ち抜く。
チェイン音が響く。氷の紋章が刻まれていく。
「あっ、あぁっ……!」
メリルが慌てて風のフィールドを展開する。
それを合図にピュイがフォトンブレードを矢継ぎ早に突き刺した。
クロラが正確に音を立てて陣を構築していき、構え、腕を振り抜く。
直後、ガキィンと凝縮した氷の爆発音が大きく響き【双子】が悲鳴をあげる。
崩れ落ち、横倒しになる本体。
【双子】、爆散。
「い、えっと、今のがイル・バータ……!? す、すごい……!」
「……威力が、足りない」
「え?」
メリルの横でじっと【双子】の居た場所を見つめて呟くクロラ。
マルスが横につく。
「ウィーク・バレットがないから……」
「ついでに次は更に効き目が悪くなるぜ」
ユヅキの不在。
そして、ユヅキが呼び込んできた強力な友人の不在。
虚空を眺め、ピュイが呟く。
「さーて……。今の私たちでどこまでやれるかしら……?」